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那覇地方裁判所 昭和50年(行ウ)1号 判決 1975年12月24日

両事件原告

山元清多

右訴訟代理人

竹内康二

昭和五〇年(行ウ)第一号事件のみの訴訟代理人

池宮城紀夫

両事件原告

有限会社 ロクハチ・ナナイチ

右代表者

佐伯隆幸

右訴訟代理人

竹内康二

昭和五〇年(行ウ)第一号事件被告

那覇市長平良良松

昭和五〇年(ワ)第一一七事件被告

那覇市

右代表者市長

平良良松

右被告両名訴訟代理人

本永寛昭

外一名

主文

(昭和五〇年(行ウ)第一号事件につき)

本件訴を却下する。

(昭和五〇年(ワ)第一一七号事件につき)

原告らの請求を棄却する。

両事件の訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一  当事者の求める裁判

一、原告ら

1  (昭和五〇年(行ウ)第一号事件につき)

「原告山元清多の昭和五〇年二月一二日付城岳公園使用許可申請に対し、被告那覇市長平良良松が同月一九日になした不許可処分を取消す。

訴訟費用は被告那覇市長平良良松の負担とする」

との判決

2  (昭和五〇年(ワ)第一一七号事件につき)

「被告那覇市は原告らに対し、金三六九万二〇〇円及びこれに対する昭和五〇年四月一一日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告那覇市の負担とする。」

との判決ならびに仮執行の宣言

二、被告ら

1  (昭和五〇年(行ウ)第一号事件につき)

被告那覇市長平良良松

(一) 本案前の申立として、主文同旨の判決

(二) 本案について「原告らの請求を棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」

との判決

2  (昭和五〇年(ワ)第一一七号事件につき)

被告那覇市

主文同旨の判決

第二  当事者の主張

(原告ら―請求の原因)

一、当事者

1  原告山元清多(以下原告山元という)は、昭和四四年東京都内新宿紀伊国屋ホールにおいて、戯曲「海賊」を公演発表し、その後も、「バーデイババーデイ」、「翼を燃やす天使達の舞踏」、「チヤンバラ」、「さようならマツクス」等の戯曲を発表し、精力的な創作活動を続けている青年戯曲作家である。原告有限会社ロクハチ・ナナイチ(以下原告会社という)は、昭和四七年七月一九日設立された法人で、参加もしくは協力する演出家、俳優、舞台美術家等約四〇名を擁し、演劇の公演、映画の製作、興業場の経営、雑誌書籍の出版等の活動を営んでいるものである。

原告山元は原告会社から依頼を受けて戯曲を作り、プロデユースを援助する関係にあり、委任関係又は雇傭関係にある。

2  被告那覇市長平良良松(以下被告市長という)は、被告那覇市(以下被告市という)を代表し、同市の行政財産に属する城岳公園(以下本件公園という)を管理しているものである。

二、城岳公園使用許可申請に対する被告市長の不許可処分

原告山元は、昭和五〇年二月一二日、被告市長に対し、使用目的は被告会社の計算において主宰する演劇の公演、使用期間は昭和五〇年三月六日から同月一三日までとする城岳公園許可申請をしたところ、被告市長はこれに対し、同月一九日不許可処分をなした。

三、被告市長の本件不許可処分の違法性

1  原告らの興業の内容及び方法

(一) 原告らは、昭和五〇年一月一日から同年一二月三一日までを期間として、訴外佐藤信の従来の作品「喜劇阿部定」等を土台に再構成された演劇「喜劇、昭和の世界」の日本列島縦断公演を企画し、その一環として、同年三月八日、九日に那覇公演するため本件公園使用許可申請をしたが、右演劇はポルノグラフイーではないし、又、天皇を椰楡するものでもなく、芸術性の高いものである。

(二) 興業の方式は、従来の移動劇場と全く同一であり、トラツク二台を使用して、杭を打込むことなく、トラツクの荷台からのアームを利用して所約二七メートル、横約一七メートルの黒色テントを張るものであつて、公園に損傷を与えるものではない。

2  本件公園の規模、整備状況

本件公園は約二、〇〇〇平方メートルの比較的小さな公園であつて、設備は便所が一個所、ベンチが周辺にある程度で、公園中央部分に従前の遊戯施設の基礎部分と思われるコンクリートの打込みが露出し、芝生は質の悪いものが中央部分にわずかに残つていて、立入を禁止した緑地はなく、大部分は地膚が露出し、樹木はわずかばかりしかなく、また整備されていない荒れた公園で、位置的にも高台にあつて多数の階段を昇らなければならないため、老人や病者の休憩、散策には不適であつて、観賞、観光に耐える植物、風景は存在しない。

3  使用を許可することの相当性

(一) 原告らの本件公園使用許可申請にかかる演劇の公演は、憲法二一条に保障する表現の自由の具体的行使であり都市公園法二条二項の公園設置目的に副うものであること、公演形態が芸術性が高く民衆に対する解放性をもち、本件公演に損傷を与えないこと、小さな規模で他人に迷惑をかけないこと、電気及び衛生上の十分な配慮があること等を合わせ考慮すると、本件公演による本件公園の使用は国民の散策、休息と同様「一般使用」の範囲に属するものであり、自由にこれを認めるべきであつて、許可申請といつても実質は届出であり本件不許可処分はこれを制限する違法なものといわなければならない。

(二) 仮に、本件公園の使用が「許可使用」に該当するとしても演劇の公演をするため公園を使用することは公園が公共の用に供される目的に副うものであり、憲法に保障する表現の自由の一形態に外ならないから、公園の管理権を適正に行使してその使用を許可するのが原則であつて、これを許可するか否かの判断は、公園の管理権者の単なる自由裁量ではない。

そうすると、前述のとおり、本件公園の使用方法及び本件公園の現況並びに原告山元の本件公園使用許可申請に際し、被告市の公園緑地課の係職員である訴外当間勇清(以下訴外当間という)が右申請の可否について絶対大丈夫である旨申し述べたため、原告らが、本件公園の使用が許可されるものと信じて諸準備したとの事情があること等に鑑みれば本件公演が他の公園利用者に若干の不便を与えるとしても公園の機能を本質的に損うものでなく、原告らの利害と比較衡量すれば本件使用を許可するのが相当であり本件許可処分は違法なものといわなければならない。

四、被告市長の違法な本件不許可処分による原告らの損害

1  原告らは、沖繩においては、那覇公園(昭和五〇年三月八、九日の両日)及びコザ公演(同月一〇、一一の両日)を計画していたが、本件不許可処分により那覇公演が不可能となつたため、コザ公演も巳むを得ず中止した。

2  原告らは、被告市長の違法な本件不許可処分により、沖繩公演を全体的に阻害され、原告らの芸術家としての名誉感情を著しく損なわれ、演劇による精神活動の表現の機会を奪われ、言葉をもつて表現できない程の打撃を受け、又、昭和五〇年の日本列島公演も大きく挫折した。右損害は金五〇〇万円をもつて慰藉されるべきである。

3  原告らは、昭和四九年一〇月から沖繩公演を準備し、その後、準備活動のため、あるいは、本件不許可処分の撒回を求めるため、沖繩を訪れ、又、沖繩公演のために、チラシ七、〇〇〇枚、ステツカー二、〇〇〇枚を印刷して既に頒布を終了し、これらに要した費用は別紙明細書のとおりで、金五九万二〇〇円である。

4  原告らは、営利を求めて演劇活動をするものではないが、従来の経験及び沖繩におけるチケツトの販売状況からして、那覇及びコザ公演により金一〇万円の利を得ることができたものである。

五、よつて、原告らは、被告市長に対し、同人の違法な本件不許可処分の取消を求め、右処分により原告らが受けた損害について責任を負うべき被告市に対し、前記慰藉料についてはその内金三〇〇万円、直接損害金五九万二〇〇円及び得べかりし利益金一〇万円合計三六九万二〇〇円の損害賠償を求める。

(被告市長―本案前の抗弁)

原告らは、請求原因第三項によつて明らかなとおり使用期間を昭和五〇年三月六日から同月一三日までとする本件公園の使用許可申請をしているところ、右期間は既に経過しているので、もはや本件訴は利益がない。

(被告ら―本案の答弁)

一、認否

1  請求原因第一項の事実中、2記載の事実は認め、その余の事実は不知。

2  同第二項の事実は認める。

3  同第三項の1の事実は不知。2の事実中本件公園が比較的小さな公園であること、立入禁止の緑地帯がないことは認め、その余の事実は否認する。3の事実中被告市の公園緑地課の係員当間が原告山元に対し、本件許可申請に対し絶対大丈夫である旨申し述べたことは否認する。

4  同第四項の事実中、那覇公演の計画があつたことについては認め、その余の事実は不知。

二、不許可処分の正当性の主張

1  本件公園は住宅地域と那覇高等学校に隣接する比較的小さな公園であり、現在、一〇〇万円相当の榕樹を植えてある他クロトンや芝生が生えている程度で、整備中であるが、本件公園は那覇市民にとつて数少ない公園(那覇市の公園面積は全国平均の六分の一程度)の一つであり、現に付近住民や那覇高等学校生にとつては欠かせない憩いの場として利用されているものである。

2  公園は公衆の利用に供するために設置されたものであるから、これの管理は特に公衆の利用を妨げることのないように配慮しなければならず、右趣旨のもとに被告市は那覇市公園条例を制定し、その三条一項によると、特定の人若しくは団体が公園を独占したり、そこで営利行為をしようとする場合は市長の許可を要する旨規定し、右許可を与えるについては同条四項によると、公衆の公園利用に支障のないことが前提になつており、更に、同項の一号ないし五号に該当する者には許可することができない旨規定し、公園の公衆利用の便益を確保している。

3  ところで、被告市長は昭和五〇年二月一二日、原告山元から演劇の公演の目的で本件公園の使用許可申請を受けたが、演劇の公演は初めてのケースであつたので、被告市長としては建設部長の訴外水間平に慎重に調査検討させたところ、原告らの演劇が沖繩に馴染みがなかつた関係でその実態(演劇の内容ではなく)がわからないばかりではなく、特定の団体が数日間も昼夜を通して公園を独占使用することは騒音等によつて近隣の住民や那覇高等学校に迷惑を及ぼすおそれがある他、公衆の公園使用にも支障をきたすおそれがあり、更には本件公園が整備中である等の諸事情を考慮した結果、原告らの演劇の公演は本件公園の管理に支障があるものと認め、原告山元の右申請を不許可にするに至つたものである。

4  演劇の公演等の目的で公演を使用する場合は書面による申請が必要であり、被告市長は、申請の主体、行為の目的及び内容、使用面積、施設の構造、使用期間等を調査検討し、更に、公園周辺住民に及ぼす影響、公衆の公園使用の利便等を比較考慮して可否の決定をしているところ、被告市長の決裁以前に窓口の係職員が当該申請の可否を事前に判断し、申請人にこれを告知することは減多にあり得ないものであつて、本件の場合、原告らの与儀公園や県の管理する奥武山公園の使用が認められなかつたことから、原告らの立場に同情した那覇市公園緑地課の係職員が本件公園の存在に気付いてこれの使用許可申請書を出してみてはどうかと教えたに止まり、これも親切心から出たものであつて、これが許可になるか否かは当の職員自身定かでないので、使用を許可する旨の発言ができるはずがないのである。仮に、右職員の言動によつて原告らが本件公園の使用が認められるかのごとく誤解したとすればそれこそ軽率という他ない。

5  原告らは、昭和四九年一〇月ころから沖繩公演を準備し、そのためのチラシ、チケツト類等を事前に準備していたとしてその損害賠償の請求をしているが、仮に、原告ら主張のとおりの損害が発生したとしても、それは原告らの責に帰すべき事由によるものであつて、被告市の関知しないところである。

6  又、原告らは、被告市長が本件不許可処分をなしたため、沖繩公演を全体的に阻害され、原告らの芸術家としての名誉感情を著しく害された旨主張するが、被告市長は前述の理由により本件不許可処分をしたにすぎず、原告らの名誉感情を阻害する意図は全くなかつたし、原告らの演劇の公演は適当な広さがあればどこでも可能であり、本件公園でなければならないというものではない。

しかも、那覇市内では公演のできる広場は他にもあるから、本件公園が使用できなかつたからといつて沖繩公演が全体的に阻害されるはずがなく、現に、原告らは、昭和五〇年五月三一日、同月六月一日の二日間那覇市古波蔵の東洋バス跡地の広場において、沖繩公演の準備をし、その旨広く宣伝中であつた。

(原告ら―本案前の抗弁に対する反論)

一、原告山元の本件公園使用許可申請は特定の期間を指定してなされているが、これに重要性があるわけではなく、原告らの目的は要するに那覇市内において公園を利用して演劇活動をすることにあつて、殊更に本件公園でなければならないということではないし、又、昭和五〇年三月六日から同月一三日までという特定の期間でなければならないというものでもない。

二、本件不許可処分が取消されれば、被告市長が先の使用許可申請に新らしく対応する義務があるから原告らからその使用を希望する期間を聴取などしたうえで公園使用許可処分を出すことが可能であり、原告らは右許可処分により本件使用許可申請の目的である那覇公演を実現することができる。

三、従つて、本件不許可処分を取消す「訴の利益」は存在している。

第三  証拠<略>

理由

第一本件公園使用不許可処分取消請求の「訴の利益」について

請求原因第一項の2の事実ならびに請求原因第二項の事実は当事者間に争いがない。

<証拠>によると、本件公園使用許可申請の目的は、原告山元らの演出する原告会社の商業演劇「喜劇昭和の世界」三部作を、昭和五〇年の一年間に北海道から沖繩県に至るまで全国九〇都市において、黒色移動テント劇場によつて、「昭和列島縦断興行」の命題の下に移動興行する一環として、本件公園において、昭和五〇年三月六日から同月一三日までのうちの二日間(実際は同月八日および九日を予定)、右三部作のうちの「阿部定の犬」なる劇を上演することにあつたこと、本件公園許可申請が不許可になつたため、右公演をすることができなかつたが、原告山元と原告会社は、昭和五〇年五月三一日、六月一日の二日間にわたり那覇市古波蔵に在る旧東陽バス跡地のいすず駐車場において、右「昭和列島縦断興行」のうちの沖繩興行として「阿部定の犬」なる劇を上演済みであることが認められる。

右事実によれば、原告山元らの本件公園使用による興行は、右申請した期間および場所をはずしては公演の意義がないというわけではなく、昭和五〇年中の右申請期間に近い時期で他の都市における公演予定と効率的に接続できる時期に興行できるならば原告らのいわゆる昭和列島縦断興行としての成果があることが認め得るが、原告らは、他の場所で既に右列島縦断興行のうちの沖繩における公演スケジユールを消化してしまつており、時期も現在では相当長く経過してしまつている以上現時点では本件公園使用許可申請の目的はもはやなく、許可使用の意義は失われている。従つて原告らの本訴請求は本件口頭弁論終結時である昭和五〇年一〇月一四日当時において、既に本件不許可処分取消の判決を求める法律上の利益を喪失したものといわねばならない。

原告山元は不許可処分の取消があり本件公園が使用許可されれば、再度沖繩公演をする意図がある旨供述し、なお本件請求の法律上の利益がある旨主張するが、右のような沖繩における再度公演の意図があるとしても、右企画自体本件申請の目的である列島縦断興行の企画とは別個のものと考えられるから、右再度の公演のため公園の使用許可申請を再度することはともかく、本件公園許可申請の目的と代替して、本件取消請求の法律上の利益とすることは容認できない。

以上により、本件公園使用不許可処分取消請求の訴は不適法であるというべきである。

第二被告市に対する損害賠償請求について

一<証拠>によると、本件公園使用不許可処分は那覇市公園条例三条四項五号により「興行を行うこと」(三条一項三号)が「公衆の公園の利用に支障」(同条四項本文)を及ぼし公園の「管理上支障があるもの」としてなされたことが認められる。

右認定を覆えすに足りる証拠はない。

二そこで本件公園使用不許可処分が違法であるか否かについて判断する。

1  原告らは、同人らが演劇の公演をするため本件公園を使用するのは、公園の「一般使用」であつて、これを不許可処分の形式で制限するのは違法である旨主張するが、都市公園法六条には「都市公園に公園施設以外の工作物その他の物件又は施設を設けて都市公園を占有しようとするときは、公園管理者の許可を受けなければならない。」と規定されているので、原告らの本件公園使用が右条項に該当するか否かについて判断する。

<証拠>によると、原告らが請求原因第二項記載のような興業内容及び方法で演劇興行し、芸術活動することが認められる。

右認定を覆えずに足りる証拠はない。

右事実によれば原告らの本件公園使用が物件又は施設を設けて都市公園のかなりの面積を占用するものであることが明らかであるから、都市公園法六条の許可使用の場合に該当するものというべく、これを「一般使用」である旨主張は原告らの独自の見解であつて、到底採用できない。

従つて、原告らの右主張は主張自体失当といわざるを得ない。

2 都市公園法一八条には「この法律及びこの法律に基く命令で定めるもののほか、都市公園の設置及び管理に関し必要な事項は、公園管理者である地方公共団体の条例で定める。」と規定し、公園の具体的管理について条例で規定することを委任しているから、右委任に基づいて那覇市公園条例が定められているところ、右公園条例三条四項にいう「公衆の公園の利用に支障を及ぼし」公園の管理上支障がある場合とは、公園の規模、施設、利用状況、公園の使用目的、使用期間、使用面積、使用方法等を合わせ考慮し、その使用によつて公園自体に回復しがたい損壊を与えるおそれがあるとか、あるいは、より多数の公衆の公園使用を著しく制約するおそれがあるとか、あるいは、騒音等によつて公園の周辺の居住者に著しい迷惑を及ぼすおそれがあるとか、公園利用者相互の利害調整および公園内の利用状況の秩序維持、管理監督に困難がある場合等をいうと解すべきである。

そして、本件公園使用許可申請に対し、右公園条例三条四項の不許可事由が具体的にあるか否かの判断は、恣意的で公園の設置目的利用管理状況等に照らし著しく不合理な判断でない限り、原則として公園管理者である那覇市長の自由裁量的判断によるものと解すべきである。

そこで本件公園使用不許可処分について、右のような裁量権の濫用とみるべき事由があるか否かについて判断する。

(一) <証拠>によると、那覇市の公園の一人当りの面積は全国平均の約六分の一(全国平均が一人当り約六平方メートルであるのに対し、那覇市は一人当り約一平方メートル)であり少いこと、本件公園は縦約五〇メートル、横約四〇メートルの広さ約二、〇〇〇平方メートルで、公園の周辺には約一〇個余のベンチが置かれ、便所が一個所にあり、公園のほぼ中央部に約六〇〇平方メートルのまばらな芝生地帯や円形の池のようなコンクリート敷きがあり、その周辺に約二〇本の樹木が生え、本件公園内には雑草も生え、まだ整備されていない公園であること、本件公園は丘陵にあつて、周辺は住宅が密集し、近くに沖繩県立那覇高等学校があつて、本件公園はその付近の老人や子供らの散策あるいは遊び場として利用され、昼食時には那覇高等学校の生徒らの休憩の場として利用されていることが認められる。

右認定を覆えすに足りる証拠はない。

(二) 本件公園使用許可申請の使用期間は昭和五〇年三月六日から同月一三日まであるところ、<証拠>によると、本件公園の実際の使用期間は同月八、九の両日であつて、訴外当間は右事実を知つていたことが認められ、右認定に反する証人当間勇清の証言(但し、後記採用する部分を除く)は採用できず、他に、右認定を覆えすに足りる証拠はない。

(三) <証拠>によると、本件公園使用許可申請の面積は本件公園全体となつているとこが認められるところ、前記甲第四号証の一、二、原告本人山元の尋問の結果(但し、後記採用しない部分を除く)によると、原告らが実際に使用する面積は縦約二七メートル、横約一七メートルの約四五九平方メートルであることが認められる。

右認定を覆えすに足りる証拠はない。

(四) <証拠>によると原告らの演劇の公演は、これを観覧するに入場料一、〇〇〇円(前売券の場合は金九〇〇円)を要し、営利を目的とした商業演劇であることが認められる。

(五) <証拠>によると、原告らの演劇の公演は午後六時開場で、午後六時三〇分から開演され、夜間にわたつて公演され、夜間は機械等を番するため何人かが本件公園に設営するテントに寝泊りする計画であつたことが認められる。

右認定を覆えすに足りる証拠はない。

右各事実に、前記争いのない事実及び前記認定の事実を総合して判断すると、本件公園はまだ整備されていない狭い公園ではあるが、那覇市における公園一人当りの面積は全国平均より極端に狭いためその付近の老人や子供らあるいは高校生らによく利用されており、その需要に応ず必要性が高いこと、仮に、原告らの本件公園使用を許可すると、原告らの本件公園の使用方法によつて本件公園を損壊するということは認めがたいが、本件公園が狭いうえ、そのほぼ四分の一に当る部分が二日間にわたつて原告らに独占的に使用されるため、より多数の公衆の利用が著しく阻害されるばかりでなく、本件公園の周辺に住宅が密集しているため、観客の出入りや、原告らの演劇の公演の音声による騒音が夜間にわたつて近隣の居住者に著しく迷惑を及ぼすことが推認されるここと、夜間に観客等人を集めるため市役所の職員による秩序維持、利用調整、管理監督が充分にゆき届かないおそれがあること、他方、原告らの演劇の公演は芸術活動である反面、営利活動でもあるので、より多数の市民に公園を解放して利用してもらうという公園の公益性に較べると私益性が強くその観覧等も一部の者に制約され公演の性質上も敢えて公共の公園を利用しなければならない必要性もないことが認められる。

そうすると、原告らの本件公園使用許可申請を許可して原告らに本件公園を使用させることは、本件公園の公衆利用に支障があり、管理上も支障がありと判断することは充分に肯認できるので、右申請を那覇市公園条例三条四項本文および五号により不許可処分にした被告市長の判断に著しく不合理な点があつたとはいえず、裁量権の濫用といえない。結局、被告市長の本件不許可処分に違法はないことになる。

三なお、原告らは、原告山元が被告市の職員である訴外当間に対し、本件公園使用許可申請について許可されるか否か問合わせたところ、同人が「絶対大丈夫でしよう」と申し述べたため、原告らは、本件公園の使用が許可されるものと信じていたのであるから、右事情をも考慮して本件公園の使用を許可すべきであり、これを許可しないのは違法である旨主張するのでこの点についても判断する。

<証拠>を総合すると、次の各事実が認められる。

1  原告らは、東京都三鷹市その他の都市で公演のための公園使用について何回か拒否されたこともあること、

2  原告らは、昭和四九年九月末ころ、那覇公演の計画を立て、昭和五〇年一月ころ、被告市の公園緑地課において、与儀公園の使用について交渉したところ、右公園は演劇の公演のためには使用させないということでその使用を拒否されたこと、そこで原告らがわざわざ東京から来て与儀公園の使用を拒否されたことに同情した訴外当間が県の管理にかかる奥武山公園の使用の可否について県の係職員に電話で照会したところ、右公園の使用も拒否され、更に、訴外当間が市の管理にかかる公園について原告らに使用させられそうな公園を検討したところ、本件公園なら原告らの使用が許可されるのではないかと思い、原告山元に本件公園使用許可の申請を指示したこと、原告山元は、右指示に従い昭和五〇年二月一二日、本件公園許可申請をなし、訴外当間に対し、本件公園の使用許可は大丈夫か、と質したところ、同人が「大丈夫でしよう」と申し述べたことから、原告山元は本件公園の使用許可が得られるものと信じ、直ちに、原告らの公演のチラシに本件公園の見取図を、前売券に日時場所等を印刷し、チラシ約七、〇〇〇枚を頒布して原告らの演劇の公演を宣伝したり、前売券を発売したり、その他の準備活動をしたことが認められる。

<証拠判断省略>

右事実によると、訴外当間が本件公園使用許可申請について不許可処分がなされる前に原告らに対し、右右申請について「大丈夫でしよう」と申し述べたことは市の係職員として軽率であるといわなければならないが、他方、原告らとしてはこれまで公園使用を拒否されたことが何回かあつたのであるから、正式に本件公園使用の許可処分があるまでは不許可処分があることをも予想して行動すべきであり、公園使用の可否について何ら最終的決裁権限を有しない一係職員の言動を信じて原告らの演劇の公演を宣伝その他の準備活動をし、本件公園使用不許可処分により結果的に損失があつたとして、当間に原告らを詐害する悪意があつたわけでもなく、右損失は原告らの安易な見込判断の誤りから招来したものにほかならない。

そうすると、原告らが訴外当間の言動を信じたとしても、右言動そのものが前記事情に照らせば違法な行為と認めることはできない。

四従つて、原告らの被告市に対する損害賠償請求はその余の点について判断するまでもなく理由がないことになる。

第三よつて、原告らの被告市長に対する公園使用不許可処分取消請求については「訴の利益」がないから不適法な訴としてこれを却下し、原告らの被告市に対する損害賠償請求については理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用については民事訴訟法八九条、九三条一項を適用して主文のとおり判決する。

(山城政正 鬼頭季郎 大田朝章)

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